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2021年8月 佐藤先生のご指導から 「考えて、考えて、考え抜いてから書く



池田 「佐藤先生、本日はお忙しいところお時間をお取り下さって、ありがとうございます」

先生 「いえ、ヒマですよ。断筆宣言いらい仕事はしていませんからね。毎日ヒマです。そいで整体の治療に週に1回外出するんですが、外に出るのは、それだけ」

池田 「……。先生、4ヶ月ぶりにお目にかかりまして、お変わりなく、お元気そうで安心しました」

先生 「いいえ、すっかり弱ってしまいましてね。特にこの、耳がすっかり悪くなってしまって、補聴器をしていても役に立たなくなってしまいましてね。 ひどいもんですよ。 いよいよダメです」

池田 「……。えっと、しかし先生、ずいぶんとご活躍で、最近も“文春ムック、佐藤愛子の世界”“ゆうゆう8月増刊号、人生を楽しむヒント”、そして“九十八歳。戦いやまず日は暮れず”と立て続けに本を出していらっしゃいます。編集者との打ち合わせだけでも大変だと思いまして」

先生 「何も何も。前に書いたものをまとめただけですからね。打ち合わせって言ったって、別に大変じゃありません。それより池田さんこそ、お元気そうで何よりです」

池田 「はい。おかげさまで元気にしております。先日、消防団のボランティア活動でオリンピック会場の警備に行って参りました。任務は救急救命担当で、ヘルメットに無線機、AEDの機械を持ちまして会場をパトロールするんですが、無観客になりましたでしょう? 熱中症で倒れている人なんか一人もおりませんでした」

先生 「あはは、ご苦労様でした。 池田さんが倒れなくって良かったわねえ」

池田 「そうです。危うくこちらが熱中症で倒れるところでした」

先生 「ふふふ、そりゃあなた、(作品として)書けるじゃありませんか。 で、随筆春秋のほうはどうなの?」

池田 「現在、随筆春秋賞を募集しておりますが、昨年に比べて応募数がずいぶん少ないんです」

先生 「なるほど。……。応募者は年寄りが多いでしょう? 年寄りはねえ、ヒマですることがないもんだから、賞に応募してくるわけですよ。 それがこの夏は、やれコロナだ、ワクチンだ、オリンピックだと騒々しくて、自分がすることがあるもんだから、書かないんですよ。そういう人たちにとって文学はその程度のもの、つまりはヒマつぶしなんです。 応募者が減るのは当然なんですよ」

先生 「もっと若い人たち、内側から突き上げるようなものがあって、自分は書かなくては生きていられないという志がある人たちは、そんなことないと思うんだけれど、最近は時代が変わってね。生ぬるい作品を書いても、ダメと言われずに発表できる場がいくらでもあるの。 自費出版も盛んでしょ。 コンピューターのなにやらいうものもあるし……」

先生 「わたしはコンピューターやスマホっていうのはダメで、画面も見ないんですけれどね。 世間じゃそれに出ているというだけで、書いた気になってしまうという風潮があるわけですよ」

先生 「昔はね、必死になって書いて、さらに書き直して、それで出版社に持ち込んでも、編集者がパッと見てポイと(捨てられてしまう)。 滅多なことで採用されて本になるなんてことはなかったから、命がけで書いたものでしたよ」

先生 「だから良い作品しか本にならなかったし、才能のある作家しか生き残れなかった。 今は簡単に本になったり、コンピューターで公開できたりするから、みんな作家気取りでしょ。 努力することがなくなって、本物が少なくなったんですよ」

池田 「本物の作品というのは百年たっても古くなりませんものねえ。佐藤紅緑先生の作品も私は好きで何度も読み返しました」

先生 「まあ、父なんかは文豪とは比較にならないし、残っているのも少年小説ですけれども、一点いまだに心から尊敬してやまないのは、かきつぶし(書き損じ原稿のこと)を、一枚も出さないということなんですよ。 さあ、これから書くぞといって、しゃんと背筋を伸ばして机の前に座ったら、サラサラ、サラサラとひとつも間違えずに、おしまいまで一気に全部書ききるんです」

池田 「それは原稿用紙に書いた作品が頭の中にあって、それを手で書き写すということですか?」

先生 「まさにそうです。だから頭の中で作品がすでに完成されているのね。 そこまで考えて考えて、考え抜いてあるということなんです。そこまで考え抜いて、はじめてプロの仕事と言えるということね」

先生 「私なんかは浅学非才の代表選手ですから、そういうことが全然できないでね。 書いても書いても気に入らなくて、破いて丸めてポイと。 かきつぶしで部屋がゴミだらけになるという体たらくで、いまだに父には遠く及びませんよ」




池田 「先生、8月6日発売の“九十八歳。戦いやまず日は暮れず”は、会員の皆さんも一斉に購入して読んでいるのですが、表紙絵や挿絵を描いている上路ナオ子さんの評判がすごく良いですね。私なんかは、なんだこのおふざけの絵は、佐藤先生に全然似てないじゃないか、と思うんですが」

先生 「あのね、池田さん。こういう絵はね、似ている似ていないじゃあないんですよ。 いかに簡単な線で対象の特長を見る人に伝えられるかっていうことが大事なんです」

先生 「ちょっと本の帯を外してごらんなさい。 この私の格好、ペンを剣のように持って構えているでしょう。 斬りあうときの侍のように、足をふんばって。 これが佐藤愛子なんですよ。 上路さんは私の本質をよく捉えているわけ。 だから良いんです。 九十歳。何がめでたい、もこの人ですよ」

池田 「先生、このところコロナが4,000人とか5,000人とか言われているときに、お会い下さってありがとうございました。 実は私、お伺いしたいと申し上げたら、先生から、こんなときに何言っているの、うちは面会謝絶よ、と断られはしないかと思っていました」

先生 「いやぁ私……、コロナなんか、かかったらかかったときのもんですよ。 コロナなんか恐れてたら97年間も生きて来られなかったですよ。あははは」